コネクテッドTV普及によるAVODのテレビデバイス視聴拡大に備え、動画マーケティングをどう評価していくべきか?
小島 功(こじま こう)
株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト
2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「ABEMA」の広告商品開発や価値証明を担当し、2019年より広報業務も兼任。
日本でもいよいよコネクテッドTV(以下CTV)の普及が進み、動画マーケティングが新たなフェーズに突入しようとしている。テレビデバイスでの視聴体験に広告つきの無料インターネット動画サービス(Advertising Video On Demand、以下AVOD)が大きく入り込むということは、地上波とインターネットで役割を分けて考えられてきた今までの広告マーケティングのファネル概念を壊す可能性がある。
AVODの役割の広がりが期待される近い将来に向け、広告投資の恩恵をしっかり受けられるメディアを見極めることが改めて重要になるだろう。
メディア間で異なるテレビデバイスでの視聴傾向
ニールセンが定期リリースしている動画市場に関するレポートの最新版「Nielsen Video Contents & Ads Report 2021」では、“AVODのテレビデバイス視聴状況”に関する調査が含まれており、そのデータが興味深いので紹介したい。
まずコンテンツを視聴する際の利用経験端末について、「ユーザー投稿型」(データソースに倣い、図では“インターネット投稿動画”と表記)と「プロ制作型」(同じく図では“無料のインターネット動画”と表記)の2つにAVODを分けて比較されていたのだが、スマートフォンで視聴される割合は「ユーザー投稿型」のほうが高いのに対し、テレビデバイスで視聴される割合になると「プロ制作型」が「ユーザー投稿型」の1.3倍以上も高く、「プロ制作型」は大画面で視聴されやすいという傾向がみられた(図2-①)。
また、テレビデバイスでの視聴頻度をメディア別で比較したデータでは、“月1回以上”と回答したユーザー割合が「YouTube」に比べ「ABEMA」「TVer」は1.2~1.3倍高かったほか(図2-②)、テレビデバイスでの視聴理由をメディア別で比較したデータでは、“ながら視聴できること”を挙げているユーザー割合が「YouTube」に比べ「ABEMA」「TVer」は約2割低いなどの差もみられた(図2-③)。
図らずも「プロ制作型」と「ユーザー投稿型」との間でさまざまな値に差がみられた格好だが、ここで重要なのは、CTV普及開始の流れの中で、同じAVODでもどのデバイスで、どんな理由で視聴するかといった傾向がメディア間で異なってきているということだ。
広告に対するユーザー評価にも違いが
このようなメディア間の差は、動画広告に対するユーザーからの評価にもみられた。
同じくニールセンの調査によると、広告に対する許容性や印象の残りやすさ、購買行動への影響など、フルファネルにわたって「ABEMA」「TVer」が「YouTube」を上回る結果となっていたのだ。
こういった広告評価の差は、前述した“大画面での視聴のされやすさ”、あるいは本コラムでもたびたび紹介してきた“コンテンツに対する情報信頼性”などさまざまな要素に起因して発生していると考えられるが、いずれにしてもメディア間でこういった差が生じていることがデータで示されていることは留意すべき点だろう。
CTV普及で複雑化する動画マーケティングに向けて
AVODという総称のもと、これまでの動画マーケティングはそれに該当するすべてのメディアが一律で評価され語られることが多かった。しかし今回紹介したデータは、同じAVODでもメディア単位で細かく評価し効果的なメディアをしっかり選んでいく必要性があることを示唆していると言え、さらにCTV普及により視聴デバイスという変数がそこに加わってくることで、メディア間で期待される効果により一層の差が出てくることが今後予想される。
CTVの普及によってより複雑化するであろう動画マーケティングに向けて、広告投資の恩恵をしっかり受けられるメディアを改めて見極める動きが求められるだろう。