番組と企業のコラボCM事例 ~すでにファンのいるコンテンツの力を活用する価値とは?~
小島 功(こじま こう)
株式会社AbemaTV 広告本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト
2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「AbemaTV」の広告商品開発や価値証明を担当し、2019年より広報業務も兼任。
多様なデバイスやメディアが発展した現代において、ブランドがユーザーに情報を届ける、あるいはそれによってユーザーを動かすのは非常に大変です。周りに情報が溢れる中で目に留めてもらうには、画一的な伝え方だけではなくターゲットに「興味を持ってもらえる」情報に昇華して伝えることが必要になります。「AbemaTV」において、その課題解決をするにはどのような方法が考えられるでしょうか?
今回ご紹介するのは、「AbemaTV」の人気リアリティーショー番組『オオカミくんには騙されない♥』シリーズとして昨年放送された『太陽とオオカミくんには騙されない♥』(以下、『オオカミくん』)の出演モデル2名を使ったオリジナルCMの制作・配信事例です。
広告主はアルバイト検索サービスのブランドで、すでに高いブランド認知を得られている若年層女性に対して、さらにその先の利用意向をもっと高めたいというニーズがありました。
そのニーズを実現するには、以下の2点の両方が必要です。
- そもそも「アルバイトに興味がある」「アルバイトをしたい」といったアルバイト検索のマーケットを拡大するためのユーザーのモチベーション作り
- 「このサービスで探したい」「このサービスを思い出す」といった1ブランドとしてのマインドシェア獲得
そこで、訴求ターゲットである若年層女性の間ですでに多くのファンがいる『オオカミくんには騙されない♥』シリーズの出演モデルを起用し、“若年層が入力しそうなキーワード” で実際にアルバイトを検索するシーンや、実際にアルバイトをしてみた充実感を語るシーンなどを盛り込んだオリジナルCMを60秒と30秒(60秒のショートバージョン)で制作したほか、既存の30秒テレビCM素材も用意し、3つの素材を「AbemaTV」にて配信しました。
その中でも今回は、尺を合わせて30秒テレビCM素材と30秒オリジナルCM素材の比較を中心に分析していきたいと思います。
アルバイト検索に対するマーケット拡大効果
まず、CMに接触したことで訴求ターゲットの「アルバイトに対する印象や実施意向」がどう変化したか?を、接触したCM素材別に比較してみました。すると、オリジナルCM素材の接触者のモチベーションが、項目によってはダブルスコアに近くなるほどテレビCM素材の接触者を大きく上回るという結果が見られました。
同じブランドのCMでありながら、アルバイトに対するモチベーション作りにここまで大きく差が出たのはなぜなのでしょうか? それは、各CM接触者をさらに「アルバイト未経験者」に絞って比較してみることで見えてくることがあります。
[全接触者] と [アルバイト未経験の接触者] を比較すると、テレビCM素材においては、印象・実施意向に関するほとんどの項目で [アルバイト未経験者] の数値が低くなってしまうのに対し、オリジナルCM素材においては、むしろ [アルバイト未経験者] の方がほとんどの項目で数値が高くなっています。さらに、[アルバイト未経験かつ『オオカミくん』視聴経験者(*1)] にまで絞ると、オリジナルCM素材における数値はさらに高くなっています。
*1:「太陽とオオカミくんには騙されない♥」全12話において6回以上の訪問と120分以上の視聴ログがあり、かつ意識上でも視聴したという認識があるユーザーを視聴者と定義。以降の(*1)についてもこれと同様。
つまり、テレビCM素材接触者とオリジナルCM素材接触者との間でアルバイトに対するモチベーション作りに大きく差が出ていたのは、アルバイト未経験者のような「アルバイトに対してもともと関与が低い人たち」のモチベーションまで上げられたかどうか?が大きく影響しており、また、その「もともと関与が低い」というハードルを越えられたのは、「好きでよく見ている番組の出演者が起用されたCMだったから」であると言えるでしょう。
「すでにファンのいるコンテンツの力を活用する」ということは、それくらい、同世代の視聴者にスルーされず “自分ごと化” をもたらすものなのです。たとえそれが広告の世界であったとしても。
ブランドのマインドシェア獲得効果
次に、今回の広告主の商材であるアルバイト検索サービス(以下、「サービスA」)に対する態度変容を見てみましょう。
こちらもテレビCM素材接触者に比べてオリジナルCM素材接触者のほうが大きくリフトアップしています。
そして先ほどと同様に、各広告接触者を低関与層、今回でいうと「サービスAの未利用者」に絞って数値を比較してみました。
特定のサービスに対して態度変容を起こすのはハードルが高いため、[全接触者] と [サービスA未利用の接触者] のグラフを比較すると、いずれの接触ケースでもリフトアップは見られませんでした。ただ、[サービスA未利用かつ『オオカミくん』視聴経験者(*1)] のグラフを見てみると、テレビCM素材においてはほとんどの項目で [サービスA未利用の接触者] よりもさらに数値が低くなってしまうのに対し、オリジナルCM素材においては [サービスA未利用の接触者] よりも数値が高くなっています。
つまり、先ほどと同様に、「好きでよく見ている番組の出演者が起用されたCMだった」ことが、「もともと関与が低い」という高いハードルを越えさせている傾向がはっきり出ていると言え、このことからも、ブランドが低関与層を含めた訴求ターゲットに対してマインドシェアを高めたい場合、「すでにファンのいる番組の力を活用」して情報の“自分ごと化”を狙うことは非常に有効な手段ではないかと考えます。
[考察]“自分ごと化”を高めた2つのポイント
今回のプロモーションの成功には、2つのポイントがあると考えています。
1つ目はターゲット層と相性のいい番組と出演者を選択し起用できたことです。
女子中高生のおよそ3人に1人が視聴しているほど「AbemaTV」の恋愛リアリティーショーが若年層にとって定番の人気番組になっている中で(*2)、その出演者を起用したクリエイティブで、若年層に向けてCMをターゲティング配信したところ、今回の広告接触者の3分の2がその出演者のことを “知っていた” と回答したほか、CMのシリーズ化に対する期待も強いなど、コンテンツとしての評価も非常に高く、リーチした多くの視聴者にとってこのCMが「情報価値を持ったもの」であったことがわかります。
*2:2018年1月~3月に『オオカミくんには騙されない』、『今日、好きになりました。』、『恋する週末ホームステイ』いずれかの番組を視聴した重複を含まない15歳~19歳の女性視聴者数を対象とし、2018年3月総務省発表の日本の15歳~19歳女性人口(2,910,000人)の割合から算出。
2つ目はポテンシャルのある視聴者が「AbemaTV」に多数存在したことです。
これは単にターゲットとなる性年代が多く存在したということだけではなく、今回の広告接触者は広告非接触者(「AbemaTV」非利用者を含む)に比べ、アルバイト経験やサービスAの利用経験が無く “今後どの検索サービスの利用者になるか” がまだ決まっていない人が多かったこと、さらにちょうどアルバイトを探すタイミングを迎えている人が多かったことなど、多くのリーチが「ポテンシャルが高いユーザーに届けられたもの」であったことがわかります。
このように、“振り向かせがいのあるユーザー” に対し “振り向かせやすいコンテンツ” とコラボして情報を届けることは、ユーザーの “自分ごと化” を高める1つの勝ちパターンかもしれません。
最後に
今回ご紹介したのは恋愛リアリティーショーとのコラボ広告事例ですが、「AbemaTV」には他にも固定ファンのいる人気番組が多数存在し、さまざまな形のコラボに次々とチャレンジしています。もちろんすべてのご要望にお応えできるわけではありませんが、地上波ではどうしても難しかったことを可能にする柔軟性が「AbemaTV」にはありますので、少しでも「ただ普通にテレビCMを流すだけではなく何か新しいチャレンジがしたい」というご要望がございましたらぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。
調査機関:株式会社マクロミル
調査対象者:15-34歳女性
調査期間:2019年4月
サンプルサイズ:非接触者n=465、テレビCM 30秒接触者n=186、オリジナルCM30秒接触者n=112