送客を狙ったCMは費用対効果を出せるのか─ イベント訴求事例に見るROASシミュレーションと考察

送客を狙ったCMは費用対効果を出せるのか─ イベント訴求事例に見るROASシミュレーションと考察
小島 功(こじま こう)

小島 功(こじま こう)

株式会社AbemaTV 広告本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト

2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「ABEMA」の広告商品開発や価値証明を担当し、2019年より広報業務も兼任。

購買や検索などの行動ログ計測を通じて、さまざまな業種において“広告で人が動いたか?”という検証事例を何度かご紹介してきました。今回お伝えするのも同じく“広告で人が動いたか?”という検証をした事例ですが、それに加えて“費用対効果としても適正だったのか?”というシミュレーションも合わせてご紹介させてください。

 

来場率の変化に見るROASシミュレーション

今回ご紹介するのは若年層向けの屋外イベントへの送客を目的とした案件の事例です(イベントは新型コロナウイルスの問題が発生する以前に開催されたものです)。「ABEMA」の恋愛リアリティーショー出演者を起用した長尺CM(30秒と60秒)を展開することで、同年代への来場意欲をより高めることを狙いました。

まず、来場率の変化をログベースで計測した結果が[図1]です。「イベント開場時間に会場エリア内に30分以上の滞在があったかどうか」を閾(しきい)値に据え、GPS計測にて来場者のカウントを行いました。

60秒CMは30秒CMに比べて配信単価が2倍になりますが、その単価の差を上回る2.2倍の効率で広告接触者の来場率を高めることができており、これは広告接触によって高確率でユーザーを動かしたいケースにおいて長時間接触することの有効性が表れた事例といえます。なお、視聴完了率は30秒尺で88%、60秒尺で79%とそれほど大きくは変わらず、1接触あたりの平均接触時間は60秒尺のほうが約1.8倍長いという結果になりました。

また、CMの接触秒数に関わらず、来場者を増加させるためにかかった概算コストは、1UUあたり約1,600円でした。このイベントの性質上ほとんどのユーザーがペアもしくはグループで来場する可能性が高いことを考えると、その場合に掛かる入場料とほぼ同額、もしくはそれ以下の金額に抑えられていることが想定されます。つまり、送客という非常に高いハードルを伴った売上に対してROASで100%を確保できている可能性が高く (会場での飲食を含めると100%を超えている可能性も)、「ABEMA」での広告接触が効果に大きく貢献できたと言える事例です。

 

来場行動を促進したものは何か?

本案件では、来場意欲などイベントに対する各態度変容についての意識調査も行いましたのでご紹介します。まず、来場意欲の変化を表したのが[図2]です。

上記のとおり広告接触によって来場意欲を高めることができていることがわかります。

このように来場意欲を向上させることができたのは何故でしょうか? 過去の記事でもご紹介してきましたが、広告接触によってミッドファネル指標をリフトアップさせられていることがやはりそれと大きく相関していそうです。

[図3]をご覧ください。

ここで注目していただきたいのは、広告接触によってユーザーを“来場意向を持つまでに至らせる”ためにはミッドファネル指標においてどのくらいのリフトアップが必要だったか?という点です。今回の案件では、[広告接触者全体]のリフトアップ値をベースラインにした場合、[広告接触かつ来場意向を持つまでに至った人]のリフトアップ値はそこからさらに3~5倍にまでに達していたことがわかります。

つまり、今回の送客のようなアクションまで狙った案件においては、ミッドファネル指標を大きく高める施策がいかに重要であるか、ということを示唆しているデータだといえます。

 

ミッドファネル指標を高めやすくする広告接触の条件とは?

参考として、先ほどの「ABEMA」での広告接触によるミッドファネル指標のリフトアップ状況を、“メディアやコンテンツの品質に対する評価”と掛け合わせたのが[図4]です。

上記のとおり、「ABEMA」の品質に対して何かしら好評価をしているユーザーのほうがミッドファネル指標の値が高まっている結果となりました。他の案件でもこれと同様の傾向が見られていることは過去の記事でもご紹介してきましたが、メディア品質に対する評価はそのメディアで接触する広告の効果に影響するということが本案件でも証明されたと言えるかと思います。今回のイベント送客のように、広告で人を強く動かしたい案件でのメディアやメニュー選定においては、メディアの“品質”は重要な変数なのかもしれません。

 

最後に

業界問わず、広告のパフォーマンスは的確に計測されるものでなければなりません。そのためには、今回のような位置情報に購買ログや検索ログを掛け合わせるなど、ユーザーの行動インサイトをより立体的に分析することが今後強く求められていくでしょう。それによって意外な相関性やロジックを発見しようとすることは、新たなチャンスを生み、ブランドの打ち出し方や広告手法の進化を見い出すことにもつながりますので、計測手法のさらなる発展を広告業界の一員としてさらに推進していきたいと思います。

 

 

<[図1]>
調査機関:株式会社アドインテ
調査対象者:15-34歳男女
調査期間:2019年10~12月
来場判定条件:イベント開場時間の間で会場エリア内に30分以上の滞在が見られたユーザーをGPS計測にてカウント
サンプルサイズ:広告非接触者n=25,585,302、30秒CM広告接触者n=75,135、60秒CM広告接触者n=182,820、秒数問わず広告接触者n=236,370

<[図2]~[図4]>
調査機関:株式会社マクロミル
調査対象者:関東1都6県在住の15-34歳男女
調査期間:2019年12月
サンプルサイズ:広告非接触者n=312、広告接触者n=169