デジタル広告の罠─ メディア間のリーチ価値は正しく評価されているか?
小島 功(こじま こう)
株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト
2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「ABEMA」の広告商品開発や価値証明を担当し、2019年より広報業務も兼任。
ユーザーが態度変容や購買行動に至るまでには、さまざまな広告との接点を経ているケースがほとんどだ。そのため、ユーザーのリーチ経路をしっかり把握しメディア間のアロケーションを改善しようという努力が盛んに行われている。
ただ、リーチ経路にあるすべてのメディアを“画一的”に評価してしまっていたとしたら注意が必要だと考える。何故なら、「本当に効果に寄与したメディアはどれなのか」まで慎重に見極めないままの評価だとアロケーションの改善が頭打ちになるリスクがあるからだ。それはどういうことかを説明していきたい。
メディア間のリーチ評価の罠
ある食品ブランドが『ABEMA』と『ユーザー投稿型メディア』に同時にブランド動画広告を出稿したケースがあった。各広告の1回接触者の効果を単純に比較すると『ABEMA』のリフトが2~3倍高かった。つまり、『ABEMA』の接触効率のほうが2~3倍高かったという評価になる。
しかしこの値を、両メディア間の重複リーチを除外した広告接触者に絞って比較するとどうなるだろうか。すると、『ABEMA』の接触効率のほうが4~5倍高かった、という評価に変化する。つまり、もし重複リーチを加味せず予算配分を検討していたとしたら、その係数の見直しが必要になるのである。
さらに本案件は、実はデジタルメディアだけではなく『テレビCM』にも同じタイミングで大量出稿されていたため、上記の値はその重複リーチも含まれたものであった。それでは、『テレビCM』の重複リーチも除外した“真の単独リーチ”で比較するとどうなるだろうか。
すると、『ユーザー投稿型メディア』の効果はさらに大きく減少し、『ABEMA』との接触効率の差は10倍以上にまで開くという結果になるのである。
メディア間の重複リーチを除外していくことでこれほどまでに値の差が変化してしまうのは、冒頭で述べた「本当に効果に寄与したメディアはどれなのか」を見極める必要性があることを示唆する結果と言えるだろう。
つまり、他メディアのリーチにより効果の後押しを大きく受けているにもかかわらず、その前後でリーチした「あまり見られていないかもしれない」メディアに対し過度に高い評価をしてしまう可能性があるため、アロケーション改善に向けたメディア間の評価については慎重に見極める必要があるといえる。
低関心層を含めた幅広い効果を狙うケースはさらに注意を
ちなみに、先ほどのテレビCMの重複接触者を除いた“真の単独リーチ”の効果をさらに[訴求ブランドの低関心層]に絞って比較してみるとどうなるだろうか? すると『ユーザー投稿型メディア』のブランドリフト値はほぼゼロになり、『ABEMA』との接触効率の差は100倍以上に開くという結果となった。
つまり、[低関心層]に対してはさらに「広告がしっかり見られ効果に寄与できているメディアかどうか」が問われてくることを示唆しており、[低関心層]も含めた全てのファネルに対し幅広く効果を出したいプロモーションではさらに細心の注意が必要だ。
ノンクリッカブルな動画広告のリーチは購買に寄与するのか
参考に、デジタル上での購入をKPIとするショッピングサイトブランドが、『SNS』上のバナー広告と同時に『ABEMA』上にブランド動画広告を出稿した事例を紹介しよう。“コンバージョン効率”が重要なケースにおいても、『ABEMA』上の“ノンクリッカブル”な動画広告リーチに価値があるかどうかの検証を行ったものである。
事前に『ABEMA』上でブランド動画広告接触があった人となかった人に分け、『SNS』上のバナー広告接触後の行動差をログで追跡し比較してみたのだが、バナー広告接触時のクリック率(CTR)で2.1倍、ECブランドサイト到達時の購入率(CVR)で1.47倍、掛け合わせると約3倍ものコンバージョン効率の差が見られたのである。
つまり、たとえ“ノンクリッカブル”であっても『ABEMA』上のブランド動画広告によるリーチに見過ごせないくらい購買意欲を押し上げる効果があったということであり、アロケーションの工夫次第では同じ予算でより多くのコンバージョンを獲得できる可能性を秘めていることを示唆する結果である。
このような“コンバージョン効率”が重要なケースにおいても「本当に効果に寄与したメディアはどれなのか」を正しく見極めることの重要性を示している事例といえるだろう。
費用対効果の改善に向けて正しいメディア評価を
前回の記事では「しっかりと見てもらえる広告かどうか」という本質的な部分の重要性を述べたが、今回の記事で述べてきた「メディア間のリーチ価値を正しく計測し評価すること」も非常に重要なアプローチである。費用対効果の改善に直結する適切なアロケーションを実現するためには、それをより一層慎重に見極めることが出稿主側に求められるのではないだろうか。
<図1~4>
調査機関:株式会社マクロミル
調査対象者:15-44歳男女
調査期間:2020年7月
サンプルサイズ:[図1]非接触者n=145、ユーザー投稿型動画メディア1回接触者n=2,285、ABEMA1回接触者n=146[図2]非接触者n=145、ユーザー投稿型動画メディア1回のみ接触者n=713、ABEMA1回のみ接触者n=51[図3]非接触者n=145、ユーザー投稿型動画メディア1回のみ接触者(テレビ重複接触も排除)n=234、ABEMA1回のみ接触者(テレビ重複接触も排除)n=21[図4]商材低関心層かつ非接触者n=122、商材低関心層かつユーザー投稿型動画メディアのみ接触者(テレビ重複接触も排除)n=222、商材低関心層かつABEMAのみ接触者(テレビ重複接触も排除)n=23
その他:①ABEMAは15秒素材の値、ユーザー投稿型動画メディアの値は15秒素材と6秒素材の合算値②CMメッセージ理解は「暑いとき、体が火照ったときに美味しい」というイメージ付与の値③[図4]は商材低関心層を掛け合わせることでn数が僅少になるためフリークエンシー数を問わない値による比較④商材低関心層の定義は「訴求商材の摂食頻度が月1回以下」
<図5>
調査対象者:20歳以上女性
調査期間:2018年11-12月
サンプルサイズ:ABEMAでの動画広告接触かつSNS内バナー広告接触者n=2,332(SNS内バナー広告接触フリークエンシー別では1回から6回まで順に879/496/354/232/211/160)、ABEMAでの動画広告非接触かつSNS内バナー広告接触者n=794,815(SNS内バナー広告接触フリークエンシー別では1回から6回まで順に374,199/193,420/113,114/57,833/34,735/21,514)、ABEMAでの動画広告接触かつSNS内バナー広告接触かつブランドサイト到達者n=2,038、ABEMAでの動画広告非接触かつSNS内バナー広告接触かつブランドサイト到達者n=5,986
その他:①SNS内バナー広告におけるCTRについてはABEMA動画広告接触者と非接触者の間でフリークエンシー分布に大きく差異があるため6回以下の値同士で比較②ブランドサイトにおけるCVRについてはSNS内バナー広告のクリック数(≒ブランドサイト到達数)を分母にした値