- Case Study
Indeed Japan株式会社
ターゲット層に合わせたオリジナルCMにより利用意向の向上を実現
2019.04.04
小島 功(こじま こう)
株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト
2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「ABEMA」の広告商品開発や価値証明を担当し、2019年より広報業務も兼任。
昨今のデジタルマーケティングでは、データドリブンがゆえに効果を得やすい[顧客層・顕在層]に繰り返しターゲティングすることで成果を上げようとするケースが多い。確かにそういった層を狙えば目先のCPA/CPIの効率は良くなりやすい。
一方で、それと引き換えに[低関心層・潜在層]に対するアプローチ方法の工夫や投資への価値評価が業界全体でずっと疎かになりがちだったという側面もある。人を選ばず誰にアプローチしても見てもらえる、という役割を果たせることも広告にとっては大事だろう。
ただ、[低関心層・潜在層]にまでしっかり見てもらうには工夫が必要である。例えばメディアという軸で見た場合、そういった役割を果たせるのはどのようなメディアなのだろうか?
そのヒントとなる定番飲料ブランドの事例を紹介しよう。新しいブランドメッセージをF1ユーザーに届けるにあたり、「ABEMA」つまり『プロコンテンツ型』と、『ユーザー投稿型』の2つの動画メディアに同じクリエイティブが同時に出稿されたのだが、その態度変容効果の比較データが興味深い。
まず、すべてのファネル層が混在する全体の[合計値]で比べてみると、「純粋想起」や「興味関心」は『プロコンテンツ型(ABEMA)』、「HP閲覧実績」や「購入実績」は『ユーザー投稿型』のほうが貢献度が高いという結果になった。
しかし一方で、この商材カテゴリーの購入頻度がもともと低い[低関心層・潜在層]に該当する人だけに絞って効果を比べてみると、すべての指標で『プロコンテンツ型(ABEMA)』のほうが貢献度が高くなりその差も顕著になる─ すなわち[合計値]とは全く異なる評価の見え方になるのである。
ちなみに、各メディアの広告接触者におけるファネル層別の割合を比較してみると、『ユーザー投稿型』での広告接触者には『プロコンテンツ型(ABEMA)』以上に多くの[顧客層・顕在層]が含まれていたことがわかっている。
つまり、すべてのファネル層が混在する全体の[合計値]の比較で『ユーザー投稿型』のほうが上回っている指標が出ていたのは、もともと効果が出やすいユーザーが多かったことによる後押しが大きいかもしれない。
このように表面的な数値だけでは一見気づけないが、[顧客層・顕在層]を中心とした効果なのか、[低関心層・潜在層]も含めた幅広い効果なのか、効果の質がメディア間で実は大きく異なっているという実態が見えてくる。
では、全く同じクリエイティブでありながら、なぜ『プロコンテンツ型(ABEMA)』のほうが[低関心層・潜在層]に対して効果が出ているのだろうか? 1つの仮説として考えられるのは、「広告に接触するメディアの品質に対する信頼度」の影響である。
[図2]の右側のグラフでは、「[低関心層・潜在層]でありながらメディアでの広告接触によって態度変容したユーザー」を表しているが、その中でも『プロコンテンツ型(ABEMA)』で広告に接触して態度変容したユーザーに対するヒアリングデータをさらに深く調べてわかったことがある。
それは、[低関心層・潜在層]における広告接触者の中でも「『プロコンテンツ型(ABEMA)』のメディアの品質に対して高評価をしている人たち」が特に高くリフトアップしていて、それが[低関心層・潜在層]全体の効果を大きく引き上げている要因になっていること、また、その「メディアの品質」については『ユーザー投稿型』よりも『プロコンテンツ型(ABEMA)』のほうがそもそも高く評価されているということである。
つまり、“メディアの品質に対するユーザーからの信頼”はそこで触れる広告に対しても受け入れやすさをもたらすものであること、そしてその信頼度が高い『プロコンテンツ型(ABEMA)』の広告は[低関心層・潜在層]も含めて誰に対してもしっかり見てもらえる場所になっているということが言えるだろう。
また、もう1つの仮説として「広告フォーマットの工夫」による影響も大きいと考えている。
「ABEMA」では、コンテンツ視聴の邪魔にならないことを考慮した広告タイミング設計のほか、オーディエンスデータだけを追跡するのではなく前後のコンテンツとの相性を加味したCM配信を行っている。また、企業CMばかりではなく視聴者が好みそうな番宣CMも多く入れるなどの調整、あるいは、「ABEMA」の広告在庫の多くを占めるリニア放送ではテレビと同様にいつでもザッピングが可能であることなど、“広告を見せられている”というユーザーの感覚をできるだけなくすような工夫がなされている。
その効果はユーザーの意識にも表れている。
広告の接触の仕方に対するストレスは『ユーザー投稿型』と比較してもしっかり軽減されており、その結果、強制視聴の形式を取っていないにもかかわらず[低関心層・潜在層]にも最後まで広告を見てもらいやすい場所になっているのである。
もちろん効果への影響はこれらだけに限るわけではないが、[低関心層・潜在層]も含めてユーザーに「しっかりと見られる広告」を実現するためのメディア選択のヒントを示唆するデータと言えるだろう。
直近の状況を見ても、ターゲティング広告に対して煩わしいと感じている消費者が7割近くに達し(*1)、さらにCookieの利用制限やiOS14のトラッキング制限など個人データ規制強化の機運の高まりもあって、効率を追求し続け[顧客層・顕在層]ばかりを追い回すようなターゲティングは今後ますますユーザーに受け入れられなくなってくるだろう。
[低関心層・潜在層]も含めて「人を選ばずしっかりと見てもらえるか」という広告の本質がより一層問われる時代に向けて、改めて広告の発想や手法の再考に業界全体で取り組んでいかないといけないのではないだろうか。
<図2~4>
調査機関:株式会社マクロミル
調査対象者:20歳以上男女
調査期間:2020年5月
サンプルサイズ:広告非接触者n=496、プロコンテンツ型動画メディアでのみ広告接触者n=496、ユーザー投稿型動画メディアでのみ広告接触者n=496、商材カテゴリに対し[低関心層・潜在層]かつ広告非接触者n=174、商材カテゴリに対し[低関心層・潜在層]かつプロコンテンツ型動画メディアでのみ広告接触者n=210、商材カテゴリに対し[低関心層・潜在層]かつユーザー投稿型動画メディアでのみ広告接触者n=168
<図6>
調査機関:株式会社マクロミル
調査対象者:各メディアを直近1ヶ月以内に利用した15-69歳男女
調査期間:2019年7月
サンプルサイズ:ABEMA利用者n=416、CGM型動画メディア利用者n=416
<*1>
出典:消費者庁「デジタル・プラットフォーム利用者の意識・行動調査(詳細版)」(2020年5月20日公表)
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_system_cms101_200520_03.pdf